8時に目が覚めた。今回の旅行で一番遅い起床時間。いよいよ今回の旅行のハイライトとなるバガン観光、朝から期待で心が弾んでいた。バガンは11世紀から13世紀まで栄えたパガン王国の都だった。興隆からモンゴル帝国フビライ・ハーンに侵攻されるまでの250年間に約400万個のパゴダと寺院が建てられ、現在でも約40平方キロメートルの平原に2,300個が残存する仏教遺跡群となっている。カンボジアのアンコール・ワット、インドネシアのボロブドゥールとともに世界3大仏教遺跡に挙げられる壮大さであるとのことだ。
朝食はホテル屋上のテラスで取った。コンチネンタルスタイルの朝食で美味しかったけれど、何よりも嬉しかったのはブラックコーヒーを飲めたこと。ミャンマーで一般的に供されるコーヒーは、全てコーヒー、砂糖、クリームが予め混ぜられているコーヒーミックスから作られている。この配合がどのようになっているのか分からないけれど、とりあえず顔をしかめたくなる程に甘いのだ。日本でも基本的にコーヒーはブラック派の僕にとっては耐え難かったので、久しぶりに口にしたブラックコーヒーはインスタントとは思えない味わいだった。
9時頃に朝食を終え、ホテルを出発。広大なバガンでの移動手段としてレンタルサイクルを選択した。1日400チャット(=44円)と格安だ。まずはバガンのニァゥンウーエリアにあるシュエズィーゴォンパゴダに向かう。ヤンゴンのシュエダゴォンパゴダと良く似た形をしている金色のパゴダ。やはりその豪奢さには目を見張るばかりだ。回廊には土産物屋が軒を並べて、観光客や呼び込みの人々で活気が溢れていた。
30分程度で見終わり、ニァゥンウーエリアから遺跡が集中するオールドバガンエリアに向けて自転車のペダルを漕ぎ始める。丁度5分位走ってニァゥンウーエリアを抜けた頃に、驚くべき風景が突然広がり始めた。荒涼とした大地の上に数え切れない程のパゴダが林立している。何百という数だ。ガイドブックの写真を見て想像していたけれど、実際に目にすると遥かにイメージを凌駕している。思わず道路脇に自転車を停めて佇んでしまった。言葉も出ないとはこういう状態を指すのだろうと思う。今だかつて見たことも想像したこともない風景が眼前にあるのだ。こうして感動に耽りながら再び進み始めると、すぐにガイドブックには載っていない小さなパゴダの上に人が登っているのが見えた。脇道に入って近付いてみると、地元の人に手招きされ、登ると見晴らしがいいとパゴダ内部に案内された。狭くて暗い階段を登り切ると、また言葉を失った。ほんの少し前に自転車を停めて見た風景を、高い位置から見ているのだ。当然、目にしている範囲も広がっている。四方どこを見渡してもパゴダだった。
その後はガイドブックに載っている寺院、パゴダを自転車を駆使して回り続けることにした。名の知れない小さなパゴダも何個か訪れたけれど、名前の分かる範囲では次の順番で訪問。1.ティーローミィンロー寺院、2.ウパリ・テェン、3.アーナンダ寺院、4.シュエグーヂーパゴダ、5.タビィニュ寺院、6.ナツラァウン寺院、7.マハーボディーパゴダ、8.ブーパヤーパゴダ、9.ゴドーパリィン寺院、10.ミンガラーゼディパゴダ、11.グービャウッヂーパゴダ、12.ミィンカバーパゴダ、13.マヌーハ寺院、14.ナンパヤー寺院、15.アペダヤナ寺院、16.ナガーヨン寺院、17.パウドームーパゴダ、18.ソーミィンヂーパゴダ、19.セインニェ・アマ寺院、20.セインニェ・ニィーマパゴダ、21.ローカテェインパン寺院、22.シュエサンドーパゴダ。この日最後となった22番目のシュエサンドーパゴダには丁度日没を迎えようとする頃、17時頃に着いたので、昼食をとるために中華料理のレストランで休憩した時間を除いては、ひたすら自転車を漕ぎ続けた。バガンは日中は35度を超える酷暑、いつもミネラルウォーターのペットボトルを自転車のカゴに入れて、水分補給には気を遣った。
22番目のシュエサンドーパゴダはバガンの数多くの寺院、パゴダの中でも最も人気のあるものの1つ。5層のテラスを持ち、上まで登ることができるのだけれど、最上部からの眺めが最高に素晴らしい。赤茶けた大地と疎ら緑、林立する何百ものパゴダが幻想的な風景を生み出している。心が震えるほど美しさに感動した体験は今までの人生の中でも数少ないけれど、その1つとなった。同じ方向を何分見ていても飽きることがない。使い古された言葉だけれど、パゴダが何百年も昔より同じ場所に立ち、それを今自分が見ていることを考えると、自分が本当に小さい存在であることや、自分自身の悩みや喜びが実にちっぽけなものであることに気付かされる。これも旅の大きな醍醐味の1つだろう。
美しい夕日を眺めた後ニァゥンウー地区にあるホテルに帰ることにしたのだけれど、ここで1人の日本人と知り合った。居山俊治さん、30歳前後の男性。シュエサンドーパゴダ近くの路上でカメラを構えている居山さんに僕が声を掛けたのが、出会いのきっかけだ。彼は丁度転職のタイミングに休暇を取り、ミャンマーに旅に来た。うらやましいことに約2週間のスケジュールを組んでいるらしく、僕も転職の際には長期休暇を取ろうと思う。居山さんのホテルは丁度僕のホテルとも近かったので、夕食を一緒にすることにした。昨日の夕食も一緒だったオーストラリアカップルの内男性(Jo)は腹痛でダウンして来ることができなかったけれど、女性(Wendy)と田村さんも交えて、4人で食事をした。この日は再度ミャンマーカレーにチャレンジしたけれど、完敗。かなり残してしまった。でも1日自転車を走らせた後のビールは最高、五臓六腑に染み渡る。疲れもあってアルコールはすぐに回り、半分酔っ払って眠りに落ちた。バガンでの1日は人生の中でも強烈に思い出に残る1日となった。
ところで、居山さんとは大いに意気投合した。僕たちみたいに働いていて比較的金銭的に余裕ができたとしても、学生時代と変わらずバックパッカースタイルの旅を続けたいということで共感。3つ星以上のホテルに泊まって、いわゆるディナーを楽しむレストランに行くことに価値を認めないわけではない。それはそれで十分に楽しいだろうけれど、旅の大きな醍醐味は、地元の人、そして同じく旅に来ている各国の人たちと知り合い、交流することだと思う。目線を同じ高さにして、気軽にフレンドリーになることができる可能性が高いのは、明らかに僕たちのスタイルだ。
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